虚行記

とある生き物の旅の物語🐰旅で出会ったものや感じたことを優しく綴っています。

ようこそ、虚行記へ

このブログは、どこでもない、でもどこかにありそうな、世界を旅するいきもの(わたし)の記録です。

どこかにあるかもしれない、小さな国や、未知の場所。
そこには、まだ名前のついていない草花や、おとぎ話のような小道があり、静かな街角には、不思議ないきものが暮らしています。

そんな世界の片隅で、わたしはそっと日記を綴っています。

旅がいつ始まったのか、いつ終わるのかは、わかりません。
ただ、歩いた道、出会った景色、ひとつひとつの出会いを、写真と共に、静かにこの日記に書き留めていきます。

どうか、あなたの静かな時間の中で、そっと日記を開いていただけたらうれしいです。



 

【旅行記】上層の橋の街 — 昼時間のはじまり

目を覚ますと、窓から差し込む光が、明るくなっていることに気が付きました。

壁の中を流れる樹液は、夜のあいだよりも淡い色になっていて、木肌の表面を、やわらかく照らしています。

ごぽ……

ごぽ……

低く流れる音は、相変わらず静かに続いていました。

けれど、昨日の夜に聞いていたときよりも、どこか軽やかです。

 

明るい窓の外を見ると、橋を歩くいきものたちの姿が見えました。

吊るされたランプの灯りは少なくなり、その代わり、街全体がぼんやり明るくなっています。

しばらく窓辺で街を眺めていると、宿の扉の向こうから、小さな足音が聞こえてきました。

昨日の、あのふわふわしたいきものです。

 

「おはよう、起きていたんだね」

「これから、昼時間がはじまるよ」

「上のほうへ行くなら、今の時間がきれいなんだ」

「もしよかったら、案内するよ」

 

そう言いながら、そのいきものは、細い枝を編んだ小さな籠を渡してくれました。

中には、丸い木の実のようなものが入っています。

朝ごはんでしょうか。齧ってみると、ほんのり甘くて、少しだけ樹液の味がしました。

 

宿を出ると、橋の上には、やわらかな風が流れていました。

木の内側なのに、ちゃんと風が吹いているのが不思議です。

いきものに案内されながら、わたしは、上へ続く階段を登っていきました。

階段は、木肌をそのまま削って作られていて、ときどき太い根が壁から飛び出しています。

その根をくぐったり、細い橋を渡ったりしながら、少しずつ高い場所へ向かいました。

 

途中には、小さなお店のような場所もありました。

透明な瓶に入った樹液を並べているところ。

枝を編んで作った灯りを吊るしているところ。

橋の途中で、丸いパンみたいなものを焼いているところ。

どの場所からも、あたたかい匂いが流れてきます。

 

高い場所へ行くにつれて、街全体が少しずつ見えるようになっていきました。

橋は、思っていたよりもずっと複雑に張り巡らされています。

遠くの橋と橋が繋がり、その下を、さらに別の階段が通っていました。

下のほうを見ると、琥珀色の樹液の水路が、ゆっくり流れています。

橋の影が映り込んで、金色に揺れていました。

 

「下のほうになるにつれて、古くなるんだ」

 

前を歩いていたいきものが、ふいにそう言いました。

見下ろした先には、もう誰も使っていないような古い階段や橋が、ぼんやりと見えました。

 

さらに階段を登っていくと、急に視界が開けました。

思わず、立ち止まってしまいます。

それまで近くしか見えていなかった橋や階段が、ずっと遠くまで続いているのが見えたんです。

上にも、下にも、枝のあいだにも、数えきれないほどの橋と灯りが広がっていました。

どうやらこの街は、わたしが思っていたより、ずっと大きいみたいです。

 

上のほうへ視線を向けると、巨大な空洞の内側が、やわらかな金色の光で満たされています。

枝のあいだを渡る橋や、高い場所の窓の灯りが、木漏れ日みたいに重なって見えます。

どこかに空があるわけではないのに、光はちゃんと朝を連れてきて、暗さは静かに夜を運んでくるようでした。

 

高い橋の上では、いきものたちが活発に行き交っていました。

風に揺れる灯り。

橋を渡る小さな足音。

遠くで流れる樹液の音。

その全部が混ざり合って、この巨大な木そのものが、ゆっくり呼吸しているみたいでした。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅行記】木肌の宿 — 巨大樹の街

橋の上から街を眺めていると、すぐ近くに、丸い扉のようなものがあることに気が付きました。

扉の上には、琥珀色のランプがひとつ吊るされています。

その灯りは、ほかの橋の灯りよりも少しだけ暖かく見えました。

近づいてみると、扉の隙間から、甘い匂いが流れてきます。

乾いた木の匂いと、あたたかい樹液の匂い。

なんだかとても、落ち着く匂いでした。

 

そっと扉を押してみると、内側から、ころころと小さな音がしました。

奥のほうで灯りが揺れます。

やがて、丸い影がゆっくり近づいてきました。

その影は、ふわふわした毛に包まれていて、木の葉のように広い耳をしているいきものでした。

わたしを見ると、一度だけ目を丸くして、それから、やわらかく耳を揺らします。

 

「おや、こんな時間に、旅の子が来るなんて」

「これから夜の時間だよ」

「今日はここに泊っていきなさい」

 

そのふわふわしたいきものから、ここは宿であることを聞き、今日はここでひと休みさせてもらうことにしました。

 

宿の中は、外から見えていたよりもずっと広くなっていました。

床も壁も、全部、生きた木肌でできています。

磨かれた木の床はほんのりあたたかく、歩くたび、ずっしりとした木の感触が返ってきます。

壁には、小さな丸窓がいくつも埋め込まれていて、その中で、琥珀色の灯りが静かに揺れています。

天井からは、枝を編んで作られた籠が吊るされ、その中に、光る実のようなものが入っていました。

 

奥の机には、透明な瓶が並んでいます。

瓶の中には、金色の樹液。

灯りを受けるたび、とろりと光っていました。

 

「旅の子にはめずらしいかもしれないね」

「おいしいから飲んでみて」

 

わたしが瓶を見ていると、そのいきものは、小さな器をそっと差し出してくれました。

中には、薄い琥珀色の飲み物が入っています。

ひとくち舐めてみると、ほんのり甘くて、少しだけ花みたいな匂いがしました。

飲み込むと、お腹の奥がじんわりあたたかくなります。

 

「この街では普通の飲み物なんだよ」

 

どうやら、この街では、樹液を飲み物として使っているみたいです。

 

いきものに案内されるまま奥へ進むと、小さな部屋がありました。

壁は削られた板ではなく、まだ生きている木肌そのものです。

表面には細い筋のようなものが走っていて、その奥を、淡い光がゆっくり流れていました。

よく見ると、壁の中を樹液が流れているんです。

ごぽ……

ごぽ……

昼間から聞こえていた、あの低い音が、部屋の中ではもっと近く聞こえました。

その音を聞いていると、不思議と安心してきます。

まるで、大きな生き物の内側で眠ろうとしているみたいでした。

 

窓のそばに近付くと、いつの間にか、街はすっかり夜になっていました。

橋の灯りは、さっきよりもずっと明るく見えます。

わたしは、街に灯るたくさんの明かりを、しばらく眺めていました。

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅行記】灯りの続く道

巨大な木の裂け目へ入ると、外の森の音が、すこしずつ遠くなっていきました。

葉っぱの揺れる音も、風の気配も、入口の向こうへ置いてきてしまったみたいです。

そのかわり、木の奥のほうから、あの低い音が聞こえていました。

ごぽ……

ごぽ……

ゆっくり、重たく、樹液が流れている音です。

 

通路は思っていたよりも細く、壁は少し湿っていました。

触れてみると、木肌はひんやりしているのに、その奥には、わずかなあたたかさがあります。

まるで、この木そのものが、静かに生きているみたいでした。

壁の裂け目からは、琥珀色の樹液がゆっくり流れています。

灯りの少ない場所では、その樹液だけが、ぼんやり光って見えました。

道を進むにつれて、少しずつ周りが明るくなっていきました。

この裂け目の入り口から、小さな灯りが星のように浮かんでいるように見えたものは、細い枝から吊るされて、ゆっくり揺れていたランプでした。

 

さらに進むと、今度は遠くに、小さな窓のような光が見えました。

木の内壁をくり抜くようにして作られた、小さな窓です。

丸い窓の奥で、橙色の灯りが静かに揺れていました。

 

耳をすませると、水の音も聞こえます。

けれど、普通の川とは少し違いました。

さらさらではなく、もっと、とろりとした音です。

 

道の端を覗き込むと、細い水路のようなものがあり、その中を琥珀色の樹液が流れていました。

灯りが映り込むたび、水面がゆっくり金色に揺れます。

気が付くと、さっきまで暗かった通路の先に、たくさんの灯りが見えていました。

橋の灯り。

階段の灯り。

高い場所に並んだ、小さな窓の灯り。

どうやら、ここは、街のようです。

 

しばらく歩いていると、急に道が開けました。

巨大な空洞が、目の前いっぱいに広がっていました。

木の内側とは思えないほど広い空間です。

高い場所には何本もの橋が渡され、その下には、いくつもの階段が複雑に続いていました。

内壁には、小さな家々の灯りが埋め込まれるように並んでいます。

さらに下のほうには、樹液の流れる大きな水路が見えました。

 

橋の灯りが映り込んで、ゆっくり揺れています。

上を見上げても、下を覗き込んでも、灯りはずっと遠くまで続いていました。

まるで、木の内側に、もうひとつの夜空があるみたいです。

 

そのとき、遠くのほうで、小さな鐘のような音が響きました。

すると、あたりが少しずつ暗くなりはじめました。

そして、橋に吊るされていた灯りが、ひとつ、またひとつと明るくなっていったんです。

わたしは橋の手すりに手を乗せながら、その光景を、しばらく眺めていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅行記】樹の流れる音を辿って — 巨大樹の内側へ

こんにちは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな場所を、今日も歩いています。

 

その森へ入ったのは、夕方に近い時間でした。

あたりには、とても大きな木がたくさん生えています。

空はまだ明るかったはずなのに、木々の枝が重なり合っているせいで、足元にはもう薄い影が広がっていました。

生えている木の幹は川よりも太く、見上げても、枝がどこまで続いているのかよくわかりません。

地面には太い根がいくつも浮き上がっていて、まるで、小さな丘が連なっているみたいでした。

 

歩いていると、ときどき、不思議な音が聞こえました。

ごぽ……ごぽ……

遠くの水のようでもあり、眠っている生き物の呼吸のようでもある音です。

最初は川でもあるのかな、と思ったのですが、近くに水は見当たりません。

立ち止まって耳をすませると、その音は、地面の下や、木の奥のほうから響いているようでした。

 

あとで知ったのですが、この森では、あの音を「樹の流れ」と呼ぶのだそうです。

このあたりの巨大な木々は、地下深くで根をつなげていて、その中を大量の樹液が流れているのだとか。

だから、この森では、静かな日でも、ずっとどこかで低い音がしていました。

風とも違う、

川とも違う、

森そのものが、ゆっくり息をしているみたいな音でした。

 

しばらく歩いていると、ほかの木よりも、ずっと大きな影が見えてきました。

最初は崖だと思ったんです。

けれど近づくにつれて、それが一本の木なのだと気が付きました。

幹はあまりにも太く、端から端までがよく見えません。

表面には深い裂け目がいくつも走っていて、そのあいだから、琥珀色の樹液がゆっくり垂れていました。

 

ゆっくりと周りを歩くと、ふと、小さな風が頬に当たりました。

森の風とは違う、少し湿った、あたたかい空気です。

気になって近づいてみると、幹の一部が大きく裂け、その奥に道が暗く続いていました。

暗い木の内側に、小さな灯りが、いくつも浮かんでいます。

その灯りは、星みたいに遠くまで続いていました。

 

わたしはその裂け目に、入ってみることにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅日記】瓶の中に残っていたもの―思い出を預かる図書館

その日、森の奥を歩いていると、木々のあいだからやわらかな光が見えました。

近づいてみると、ちいさな建物がありました。

 

静かに中に入ってみると、たくさんの棚が並んでいました。

ここは、図書館でしょうか。

 

でも、その棚には、本がありませんでした。

かわりに並んでいたのは、小さなガラス瓶。

瓶の中には、それぞれ違う色の灯りが入っているようです。

 

瓶に近づいてみると、灯りだと思っていたものは、景色でした。

どこかで見たような夕暮れ。

だれかの笑った気配。

窓から差し込む、あたたかい光。

 

 

―きれいだな

そう思いながら、棚に並べられた瓶をゆっくり覗いて歩いていると、奥のほうで、ちいさないきものに出会いました。

 

「きみも、思い出を預けにきたの?」

 

そのいきものは、棚の灯りを見上げながら言いました。

話を聞くと、ここには、いきものたちが思い出を預けに来るのだそうです。

 

「持ったままだと、こぼれてしまいそうなものとか」

「うまく抱えたまま、歩けなかったものとか」

「そういうのを、ここに置いていくんだ」

 

灯りが、瓶の中でちいさく揺れていました。

 

―きみも、預けに来たの?

 

そう聞くと、そのいきものは、少しうつむき、

「ううん、まえに預けたものを、探しに来たんだ」

「でもね」

「見つけても、本当にこれだったのか、分からなくなってしまうことがあるんだ」

 

そう言って、ひとつの瓶へ、そっと気配を向けました。

瓶の中には、淡い金色の景色が揺れていました。

草の匂い。

遠くで揺れる灯り。

だれかが、すぐそばにいたような気配。

 

「大事だった気はするんだ」

「でも、ほんとうに自分のものだったのか、分からなくなってしまって」

 

そのいきものは、困ったみたいに笑いました。

わたしは、その瓶をもういちど見上げます。

景色はぼんやりしているのに、あたたかさがまだ残っていました。

 

―忘れてしまっても、なくなるわけじゃないのかもしれないね

 

そのいきものは、しばらく瓶の灯りを見つめていました。

それから、小さく笑うようにいいました。

「……そうだったら、いいな」

 

 

図書館の入り口で、もういちど振り返ります。

棚の奥では、たくさんの灯りが静かに揺れていました。

 

思い出せなくなっても、消えてしまうわけではないものが、ここにあるのかもしれません。

そんなことを考えながら、わたしは図書館を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【観察日記】かたちをなぞるもの ― 野原で出会った花

こんにちは、兎田よもぎです。
どこでもないけれど、どこかにありそうな場所を、今日も歩いています。
 

その日、わたしは、小さな灯りを包むような丸いかたちの花―まるでチューリップのような―花が一面に咲く野原に出ました。

やわらかい風が吹くたびに花がゆっくりと揺れて、あたりには、ほんのり甘いにおいが広がっています。

ゆるやかな起伏の丘を、同じかたちの花が、どこまでも続いていました。

ところどころ、花と花のあいだに風の通り道ができていて、そこだけ、少しだけ強く揺れているのが見えました。

きれいだな、と思って、ひとつの花に顔を近づけてみました。

そのときです。

目の前の花が、ぴょん、と小さく跳ねるようにして、わたしから離れました。

なにがおこったのだろう、と思っていると、さっきまで静かに咲いていたはずの花たちが、こちらを見ているような気配を持ちはじめます。

よく見てみると、風も吹いていないのに葉っぱがゆらゆらとゆれ、根のあたりも、土の中に埋まっているのではなくて、やわらかく動いています。

どうやらこれは、ただのお花ではなく、いきものなのかもしれません。

しばらくわたしの様子を見ていたお花が、ひとつ、またひとつと、こちらへ寄ってきます。

 

わたしがすこし歩くと、同じようについてきて、止まると、ぴたりと動きを止める。

首をかしげると、花のかたちのまま、すこし遅れて、同じように傾きます。

まねをしているのかもしれません。

そう思って、今度は手を大きく振ってみると、いくつもの花が葉を手のように動かし、同じように動きました。

 

わたしは円を描くように歩いてみます。

お花たちは、わたしのうしろをついてきます。

歩幅は少しずつずれていて、そろっているようで、どこかばらばらで、それでも、わたしの動きをなぞるように。

まるで、ダンスをしているようでした。

 

いちばん近くにいたお花が、わたしのすぐそばまで来て、立ち止まりました。

そしてゆっくりと、かたちを変えはじめます。

葉っぱが持ち上がって、体の横に添うように広がり、根の部分が、下で支えるようにまとまっていく。

花の先は、すこし傾いて、こちらを見ているようです。

……なんとなく、わたしに似せているのかもしれません。

 

 

しばらくそのまま、向かい合っていると、周りのお花たちも、同じように形を変えようとしているのが見えました。

けれど、途中でやめてしまうものや、もとの花の姿に戻ってしまうものもいます。

―かわいいな

そう思い、見守っていました。

 

やがて、風がひとつ、通り抜けました。

その拍子に、目の前のお花がふっと力を抜いたように、もとの形へ戻ります。

周りの花たちも同じように、何事もなかったかのように、静かに、揺れるだけの姿に戻っていました。

さっきまでの動きは、もう、どこにも見えません。

しばらく待ってみましたが、誰もこちらを見ることはなくて、ただ、風に揺れているだけです。

まるで、さっきまでの光景は、夢だったようです。

わたしは、少しだけその場で待ってから、また歩き出しました。

 

振り返ると、野原には、ただお花が咲いているだけの景色が広がっています。

―あれは、夢だったのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅日記】やわらかな光に見守られて眠る夜—森の中の小さな光

その日、わたしは静かな夜の森を歩いていました。

昼よりも空気が少しひんやりしていて、葉っぱのあいだから見える空は、もうずいぶん暗くなっています。

 

しばらく歩いていると、草むらの中に、小さな光があるのを見つけました。

草のあいだに、ぽつんとひとつ。

淡く、やさしく光っています。

 

近付いてみると、草は細くて、ふつうの草とあまり変わらないのに、その先だけが、ほのかに明るくなっていました。


先端をそっとつついてみました。

すると、光はすっと消えてしまいました。

消えてしまったあと、指先にほんのりとあたたかさが残ります。

 

不思議に思いながら、そのまま先へ進むと、また別の場所にも同じ光がありました。

少し歩くたびに、ひとつ。

また少し歩くと、もうひとつ。

まるで、道しるべみたいです。

 

今日はもう一休みしようと思い、近くの大きな木に身を寄せます。

根元にはやわらかな苔がひろがっていて、ここなら気持ちよく眠れそうです。

体を丸めて座りこみ、ふう、と息をついたときでした。

 

わたしのまわりに、たくさんの淡い光があることに気が付きました。

さっき見つけた光る草たちが、いつのまにか、すぐそばで増えていたんです。

ひとつひとつは小さくて、強く光るわけでもありません。

でも、やわらかな明るさが、わたしの周りをそっと包んでいました。

 


いちばん近くにあったものを、もういちど、つん、と触ってみます。

すると、やっぱりふっと消えてしまいます。

もうひとつ。

その隣も。

触れるたびに光は消えていくのに、気が付くと、また別の場所で新しい灯りがそっと揺れていました。

そのあたたかさに包まれているうちに、体の力が、ゆっくり抜けていきました。

目を閉じると、すぐ近くに、小さなあたたかい気配がたくさんあるような気がします。

なんだか安心する気配に、いつの間にか、わたしは眠っていました。

 

翌日、朝日で目を覚ますと、まわりにはもう光る草はありませんでした。

でも、眠っていた場所は、ほんのりと、まだあたたかい気配に包まれている気がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。