虚行記

とある生き物の旅の物語🐰旅で出会ったものや感じたことを優しく綴っています。

ようこそ、虚行記へ

このブログは、どこでもない、でもどこかにありそうな、世界を旅するいきもの(わたし)の記録です。

どこかにあるかもしれない、小さな国や、未知の場所。
そこには、まだ名前のついていない草花や、おとぎ話のような小道があり、静かな街角には、不思議ないきものが暮らしています。

そんな世界の片隅で、わたしはそっと日記を綴っています。

旅がいつ始まったのか、いつ終わるのかは、わかりません。
ただ、歩いた道、出会った景色、ひとつひとつの出会いを、写真と共に、静かにこの日記に書き留めていきます。

どうか、あなたの静かな時間の中で、そっと日記を開いていただけたらうれしいです。



 

【カフェ日記】セティアの街のカフェでひと休み

こんにちは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。

 

先日到着したセティアの街を散策していたところ、丸みを帯びた建物のあいだから、やわらかい光が漏れているのが見えました。

そこには小さなカフェがあり、扉を開けると、木の香りと、あたたかい空気が、ふわりと流れてきました。
外の冷たさが、ゆっくりとあたたかさに塗り替えられていくのがわかります。

カウンターの上には、ささやかな軽食が並んでいました。
湯気を立てるそれを前にすると、手足の先まで、あたたかさが戻ってくる感じがします。

 

セティアでは、夜になるほど輪郭がやわらぎ、もの同士が混ざりやすくなるのだそうです。

今はまだ太陽が真上を少し通り過ぎたくらいの時間。

この時間は、ものの形がちゃんと保たれているように感じました。
カフェの中も、椅子は椅子で、テーブルはテーブルで、それぞれが、自分の場所にありました。

「長くいるとね、満ち足りてしまうんです」と、カフェで出会ったいきものが言っていました。
この街にいる理由を、探さなくなってしまうほどに。

 

年に何度か、街も輪郭も、完全に混ざる夜が訪れるそうです。
理由を持たずにいると、街と同じ色になって、同じ輪郭になって、
いつの間にか、ここにいたことさえ、わからなくなってしまうのだそう。

今は、カフェの中で、湯気を眺めながら、まだ安心していられる時間です。

カップの縁に触れると、あたたかさが、ちゃんと伝わってきました。
これは、わたしがここに来た理由のひとつだと、思いました。

窓の外では、雪の残る街が、静かに呼吸しています。
夜になれば、また輪郭はやわらいでいくのでしょう。

それでも、こうして、ひとつひとつ確かめるように過ごしていれば、混ざらずに、また朝を迎えられる気がしました。

今日は、このカフェの記憶を持って、宿に戻ろうと思います。

まだまだこのセティアの街を楽しまないといけません。

そう覚悟を持って、わたしは、一歩踏み出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅行記】輪郭のやわらぐ街、セティアへ

こんばんは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。

 

ようやく、船が目的地にたどり着きました。
到着したのは、夜になると、ものの輪郭がやわらぐことで知られている、セティアという街です。
ここでは、暗くなるほど、世界がやさしくなるそうです。

 

 

 

わたしがこの街についたのは夕方ですが、桟橋に足を下ろすと、地面の縁が、すでに少し曖昧な気がしました。
石と石の境目が、ほどけるように滲んでいます。
昼の名残が、まだ薄く残っています。

この街では、空より先に、足元が変わっていくそうです。
夜が近づくにつれて、街が、まざっていくのだと。

 

今日泊まる宿に向かって、歩き出すと、道のかたちはそのままなのに、角ばっていたところが、丸くなっていきます。
同じ道なのに、さっきより、すこしだけ歩きやすい気がしました。

いきものたちは、やわらいだ輪郭の中を、自然に進んでいます。

やがて、建物の壁も、夜に近づくにつれて、境目を失っていきます。
窓と壁、影と影のあいだが、静かにつながります。

街は少しだけ滲みを深めました。
どうやら、夜が本格的に始まったようです。

この街では、足の小指をぶつけて痛がることは、夜は心配しなくてよさそうだなと、ぼんやり考えていました。

また、明日この街を散策しようと思います。

それでは、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅行記】船で食べた、あたたかな夕食

こんばんは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。

 

今日は、船での移動の途中に食べた、夕食のことを書こうと思います。

夜になる少し前、船の中に、やわらかい灯りがともりました。
長い移動のあいだ、ずっと静かだった船が、「そろそろ休もう」と言ってくれているみたいでした。

テーブルの上には、パンと、温かいスープが用意されていました。
船での移動で緊張していたのでしょうか。その湯気を見たとき、胸の奥が、ふっとほどけるのを感じました。

パンは、外が少しかたくて、中はやわらかく、ちぎると小さな音がします。
スープは、器を持つと、手のひらにじんわりと熱が伝わってきました。

ひとくち食べるたびに、身体の中に、ゆっくりと温かさが広がっていきます。
船で移動していることを、少しだけ忘れてしまうくらい、落ち着いた味でした。

 

窓の外では、淡い灯りが静かに揺れています。
その光を見ながら、パンをスープにひたしていると、この船が、ただ運んでくれる場所ではなく、旅の途中で休ませてくれる場所なのだと思いました。

たぶん、この船では、急ぐ必要がないのです。
ちゃんと食べて、ちゃんと温まって、それから次の場所へ行けばいい。そんなふうに、教えられている気がしました。

食べ終わるころには、心も身体も、すっかり落ち着いていました。
また夜の移動が続きます。でも、さっきよりも、少しだけ安心して進めそうです。

 

もうすぐ、新しい街にたどり着くそうです。

心も身体も温まったまま、この船に身をゆだねて、今日は眠りにつこうと思います。

では。

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅行記】夜の船を掃除する、白いぽわぽわ

こんにちは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。

 

次の旅先まで、移動している船の中で、ちょっとやさしくて、かわいい出来事があったので、そのお話をしようと思います。

 

夜の移動は相変わらず静かで、船は淡く光る流れの上を、音もなく進んでいます。
わたしは廊下を歩きながら、木の壁に映る灯りの揺れを眺めていました。

すると、床のすみで、いくつもの白いぽわぽわした何かが、動いているのに気づいたのです。
最初は光のかたまりかと思いました。でも、よく見ると、それは丸くて、ふわっとしていて、ころころと前に進んでいました。

白いぽわぽわは、床をすべるように移動しています。通ったあとは、なんだかきれいになっていました。
よーく見ると、木の表面についた、目に見えない埃のようなものを、やさしく集めているみたいです。集めたものは、自分の中に吸い込むようにして、また次の場所へ行くようです。

 

 

わたしがじっと見ていると、白いぽわぽわは、いったん立ち止まりました。
それから、ほわっと膨らんで、まるで「見られてしまった…!」と言っているみたいな気配を出しました。怒っている感じはなくて、少し照れているようにも見えます。

それでも見つめていたら、白いぽわぽわはあきらめたように、再び掃除を続けはじめました。
窓の下、扉の前、角になった場所。手が届きにくそうなところばかりを、丁寧に回っています。船の中が、少しずつ、落ち着いた空気になっていくのがわかりました。

 

たぶん、この船は、こうして自分で自分を整えているのだと思います。
白いぽわぽわは、そのための存在で、夜のあいだに、船を綺麗にしているのかもしれません。

掃除がひと段落したのか、白いぽわぽわは、最後に小さく震えてから、光の流れに溶けるようにどこかに消えてしまいました。
あとには、さっきよりも、すこしだけ澄んだ静けさが残っていました。

 

なんだか、わたしも旅行カバンの中身を整理したくなってきました。

次の旅先に着く前に、カバンの中身を綺麗にしようと思います。

 

船は、今も変わらず進んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅行記】夜の灯りに運ばれる旅路

こんにちは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。

 

いま、わたしは、新しい旅の目的地に行くため、船で移動をしています。

その船は古い木造で、木目がそのまま露わになっています。何度も水と風に触れてきたような質感をしています。

船は淡く光る流れの上を進み、船の木目が夜の光をやさしく受け止めていました。


甲板に立つと、木の表面はひんやりとしています。

それでいて不思議と冷たすぎず、まるで長いあいだ誰かを待ちながら、この夜を渡ってきた船のように感じられました。歩くたびに、かすかな軋みが伝わってきて、この船がずっと、わたしのような旅するものを運び続けていることがわかりました。

 

 

この船の移動には、船を揺らすもの、音を立てるものがありません。
煙もなく、うなりもなく、ただ光の流れに身をあずけるように、静かに滑っていきます。足元の下では、川のような灯りがゆっくりと揺れ、呼吸するみたいに明滅しています。その光が船底に触れるたび、船全体が、かすかに明るくなりました。

 

周囲は常に、深い夜でした。
遠くも近くもはっきりしない暗さの中で、光の流れだけが、ここが道であることを教えてくれています。

わたしは船の中からその光を眺めながら、次の街のことを考えていました。どんな匂いがして、どんな気配が流れているのでしょうか。いまからとても楽しみです。

 

この船には初めて乗ったはずなのに、船内に満ちている木の匂いや、窓から差し込む淡い灯りの揺れ方が、どこか懐かしく感じられて、昔から知っている場所のようでした。揺れに身を任せていると、時間の輪郭がぼやけていきます。移動しているはずなのに、同時に、休んでいるような気もしていました。

そういえば、以前、自分が長くいた場所も、こんな匂いがしていた気がするんです。
いつもあたたかく迎えられて、やさしさに満ちている場所。この船にも、あのときと同じ、言葉にならないやさしさが流れている気がします。

 

もう少ししたら、次の街に着くはずです。
それまで、わたしは、このやわらかな夜と、木のぬくもりと、静かな灯りに包まれていようと思います。

 

また、続きを書きますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅日記】凍ったコップに残る光

こんにちは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。

 

昨日、光をまとった雪が降りました。

朝、宿の外に出ると、空気がきんと澄んでいました。
もう雪はやんでいましたが、雪が残した光のせいか、
今朝は空気まで、きらきらしている気がします。

ふと、外に置いたまま忘れていたコップに気がつきました。
中をのぞくと、昨日降ってきた雪が、そのままの形で、凍っていました。

雪は、水になりきれず、氷になる前の気配を残したまま、透明な壁の中に閉じ込められています。


コップを持ち上げると、中で、光が動きました。
昨日、夕空から降りてきたあのきらきらが、
凍った時間の中に、そっと留まっているみたいでした。

触れると、指先に冷たさが伝わります。
でも、その奥には、昨日見上げた夕空の色や、森に降りてきた光の感触が、まだ残っていました。

夜のあいだに動けなくなってしまった雪は、時間ごと、朝の中に運ばれてきたようです。
昨日の夕方がかたちを変えて、ここに残っている気がしました。

 

太陽が少し高くなると、氷の中の雪は、わずかに形を変えました。
閉じ込められていた光が、外へ出ようとするみたいに、ゆっくり、ゆっくりと。

やがて、氷の角がやわらぎ、光は水になって、静かに動きはじめます。
きらきらは消えてしまったけれど、冷たい透明の中に、昨日の気配だけが、そっと残っていました。

 

今日はどんな道を歩こうかな。

森は、もう目を覚ましています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。

【旅日記】光をまとった雪の降る夕空

こんにちは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。

 

その日、わたしは森の中で立ち止まり、空を見上げていました。
見上げた冬の夕空は、もう昼の色ではなく、
まだ夜にもなりきらない、薄い青と灰色が混ざった場所でした。

その空から、雪が降ってきました。
とても大きな粒です。
ひとつひとつが、ただ白いだけではなく、内側に小さな光を抱えているようでした。

雪は、落ちてくる途中で、きらきらと揺れます。
夕空に残った光を集めながら、ゆっくり、ゆっくりと。
まるで、空が最後に残したものを、森へ手渡しているみたいでした。

 

 

枝の間をすり抜けるたびに、光の粒は形を変えます。
強く光るもの、淡くほどけるもの、途中で消えてしまうもの。
それでも、どの雪も、確かに「ここへ向かって」降りてきていました。

わたしの目の前を通り過ぎる雪は、あたたかく見えます。
触れればきっと冷たいはずなのに、光をまとっているせいか、冷たさは感じません。
むしろ、なにかを思い出させるような、やさしいあたたかさがありました。

 

森は静かです。
空から光の粒が降り、枝が受けとめ、地面へと渡していく。
ひとつひとつが、ゆっくりとつながっています。

 

やがて、夕空は少しずつ色を失っていきます。
それでも、雪は降り続けていました。
光をまとったまま、迷うことなく。

 

今夜は、きっと寒くなるにちがいありません。

暖かい宿に戻って、
温かい飲み物を飲もうかな。

この森に降った光のことを、思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。