虚行記

とある生き物の旅の物語🐰旅で出会ったものや感じたことを優しく綴っています。

【カフェ日記】セティアの街のカフェでひと休み

こんにちは、兎田よもぎです。

どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。

 

先日到着したセティアの街を散策していたところ、丸みを帯びた建物のあいだから、やわらかい光が漏れているのが見えました。

そこには小さなカフェがあり、扉を開けると、木の香りと、あたたかい空気が、ふわりと流れてきました。
外の冷たさが、ゆっくりとあたたかさに塗り替えられていくのがわかります。

カウンターの上には、ささやかな軽食が並んでいました。
湯気を立てるそれを前にすると、手足の先まで、あたたかさが戻ってくる感じがします。

 

セティアでは、夜になるほど輪郭がほどけ、もの同士が混ざりやすくなるのだそうです。

今はまだ太陽が真上を少し通り過ぎたくらいの時間。

この時間は、ものの形がちゃんと保たれているように感じました。
カフェの中も、椅子は椅子で、テーブルはテーブルで、それぞれが、自分の場所にありました。

「長くいるとね、満ち足りてしまうんです」と、カフェで出会ったいきものが言っていました。
この街にいる理由を、探さなくなってしまうほどに。

 

年に何度か、街も輪郭も、完全に混ざる夜が訪れるそうです。
理由を持たずにいると、街と同じ色になって、同じ輪郭になって、
いつの間にか、ここにいたことさえ、わからなくなってしまうのだそう。

今は、カフェの中で、湯気を眺めながら、まだ安心していられる時間です。

カップの縁に触れると、あたたかさが、ちゃんと伝わってきました。
これは、わたしがここに来た理由のひとつだと、思いました。

窓の外では、雪の残る街が、静かに呼吸しています。
夜になれば、また輪郭はほどけていくのでしょう。

それでも、こうして、ひとつひとつ確かめるように過ごしていれば、混ざらずに、また朝を迎えられる気がしました。

今日は、このカフェの記憶を持って、宿に戻ろうと思います。

まだまだこのセティアの街を楽しまないといけません。

そう覚悟を持って、わたしは、一歩踏み出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。