こんにちは、兎田よもぎです。
どこでもないけれど、どこかにありそうな世界を旅するものです。
森を歩いていたら、雪の中に、少しだけ色の違う場所がありました。
白が途切れ、丸くへこんだ奥に、小さな扉が見えています。
扉の上には雪が積もり、まわりの森と同じように、冬の中に沈んでいます。
けれど、ひとつだけ、ちがうところがありました。
小さな窓から、灯りがこぼれているのです。

強い光ではありません。
遠くまで届くものでもありません。
それでも、その灯りは、ここがただの空洞ではないことを、静かに伝えていました。
わたしは、少し離れたところで立ち止まりました。
近づきすぎると、この場所の穏やかさが、知らないものへの警戒に、変わってしまいそうだったからです。
雪は音を吸い込み、森は動かず、灯りだけが、ゆっくりと呼吸するように、そこにありました。
中に誰かがいるのでしょうか。
それとも、誰かがいた名残なのかもしれません。
わたしは、その様子を、しばらく眺めました。
扉を叩いてみたい、そんな気持ちが浮かびました。
けれど、もし中で、いきものが静かに冬を越していたら。
もし、穏やかに眠っていたら。
その時間を、ほどいてしまうかもしれません。
そう思い、わたしは声をかけることも、合図を送ることもせず、ただ、ここに「そういう場所がある」と知ったまま、また、歩き出しました。
冬の中には、近づかずに、見守るほうがいい場所も、あるのだと思います。
そのことを、この小さな扉と灯りが、教えてくれました。
春になったら、そのときは、そっと、扉を叩いてみようかな。
※この記事はフィクションです。実在の場所・団体とは関係ありません。